はじめに
戦後から比べると日本人小児の発育は良くなり、平均身長体重も良くなったと言われます。ただ各学校で実際に計測したデータを元にした文科省の統計では、近年20-30年以上身長体重はほとんど変化していません。
また思春期発来の時期も変わっていないのも事実です。
そこで思春期早発症について述べてみます。
思春期早発症とは
「性成熟徴候（乳房発育、陰毛発生、初経等）や身長･骨年齢の促進が本来よりも早期に生じる病態である。」と定義されます。
具体的には
女児
①7歳6ヶ月までに乳房が膨らみ始める。
②8歳までに腋毛陰毛が生える。
③10歳6ヶ月までに生理が始まる。
男児
①9歳までに精巣が発育する。
②10歳までに陰毛が生える。
③11歳までに腋毛ひげが生えたり声変わりがみられる。
※背が低い子は通常思春期が遅いため、低身長の程度により1歳以上診断基準年齢が高くなることがあります。
原因
他の子より非常に思春期が早いだけの場合もありますが、視床下部・下垂体・副腎・卵巣・精巣に病変がある場合があります。
思春期が早い場合は、必ず一度精査することが重要となります。
将来に影響があるの？
上記の部位に病変があればその病変により大きく将来は影響されます。単に思春期が非常に早い場合でも、
①早期に二次性徴が発現することで、子ども同士のつきあいのなかで、周りが違和感を感じたり、本人がとまどって心理的なストレスを生じることがあります。
②一時的に身長が伸びますが、それを上回るスピードで骨の成熟が進行し、普通より早期に骨端線が閉鎖して（大人の骨になるため）、他の子より早く身長の伸びが止まり、結果的に低身長になります。
③女児の場合月経が早期に発来することで、将来乳がんや子宮内膜症のリスクが高くなります。
診断のためにどんなことをするの？
①病歴聴取：いつ頃から、どのような症状が始まったかを聞きます。また、在胎週数、出生時の身長体重、両親の思春期の時期や母親の初経の年齢などを聞きます。 ②成長曲線：母子手帳、保育園幼稚園の成長の記録、学校の健康記録から成長曲線を作成します。
③診察：精早熟の徴候を診察します。
④骨年齢：手のレントゲンを撮って骨が何歳なのかを調べます。
⑤ホルモン検査：血液中の黄体ホルモンや性ホルモンなどを調べます。
⑥頭部MRI,腹部（精巣）超音波検査：視床下部・下垂体・卵巣・子宮・精巣の病変を調べます。
※①②③④⑤は思春期早発に詳しい医師への受診が必要ですが、⑥は検査機器のある病院なら通常の検査ですので、詳しくない医師でも画像検査は可能です。
どんな治療があるの？
臓器に病変がある場合はその病変に対する治療を行います。
単に思春期が非常に早い場合（特発性中枢性思春期早発症）が比較的多く、その場合は以下に示す様な治療を行います。
具体的にはGn-RHという自らが持っているホルモンとほぼ同じ物（アゴニスト）をマイクロカプセル（直径150μm以下）に入れた製剤を投与します。
投与方法は月に１回予防注射の様に皮下注射します。
注入したマイクロカプセルから徐々にホルモンが溶け出し１ヶ月ほどGn-RHの濃度が変化しません。
濃度が変化しないことで、下垂体の性腺刺激ホルモンが反応せず→性腺ホルモン分泌が抑制され→思春期前のホルモン状態となり→二次性徴の進行がストップします。
以上の様な薬理作用のため忙しくても毎月病院での注射が必要ですが、自分が持っているホルモンとほぼ同じ製剤のため副作用もほとんどなく、中止後３ヶ月ほどでホルモンの反応性は元に戻ります。
約30年前より比較的多く行われている治療で、その後の安全性まで確立した治療と考えられています。
※思春期はとてもプライベートな内容ですが、思春期早発症については、早期に適切な診療を受けることが、将来的にも重要とご理解ください。
※本人の思春期発来の時期だけでなく、両親の思春期発来時期についても、お尋ねしますので思い出しておいて下さい。
※受診の際は、母子手帳・保育園・幼稚園・小学校・中学校の身長体重の記録をお持ち下さい。職員が成長曲線を作成します。（ご自分での成長曲線は作成せず成長の記録をお持ち下さい。）
思春期早発症についてお悩みの際は、しみずこども医院にご相談ください。